VoyagerGuitarsのアコースティックギター製作考

アコースティックギター製作、ヴォイシング・タップチューニングその他いろいろ~ヴォイジャーギターズ~

クラドニパターンでみるアコースティックギター振動モードとその周波数の変化

クラドニパターンとは振動する平面に粉状のものを撒いて振動している部分と節の部分を可視化する方法です。

Resonance Experiment! (Full Version - With Tones)(※音量注意)

ギターの表板、裏板でも同じことができます。
実験中の動画です。


今回はこのクラドニパターンを使って製作中のギターの振動モードとその周波数がどのように変化するか、また完成時の音色にどのように影響するのか実験してみました。

実験に使用したのはヴォイジャーギターズVJ-45モデル2本です。ギブソンラウンドショルダーに準じた仕様です。

測定は表板と横板を接着したあと5段階で行いました。

  1.  In mold                  バ ック未接着、ヴォイシング前、モールドに固定した状態
  2. Out mold                バック未接着、ヴォイシング前、モールドから外した状態
  3.  In mold voiced      バック未接着、ヴォイシング後、モールドに固定した状態
  4. Out mold voiced    バック未接着、ヴォイシング後、モールドから外した状態
  5. Back glued             バック接着後、モールドから外した状態

測定結果です。
まず1本目のギター(以下No.1とします)。こちらはいつも通りにヴォイシングしました。

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2本目のギター(以下No.2)はクラドニパターンでの周波数を確認しながら各モードの周波数がより均等に分布するようにヴォイシングしました。特にクロスダイポールの周波数がNo.1に比べて高いことが分かると思います。

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まずモノポールについてですがモールドに入った状態の方が入っていない状態に比べ周波数が低めになります。写真を見るとわかりますがこれはモールドによってサイドが固定されている場合、表板のより広い面積が振動することで周波数が下がると考えられます。 ロングダイポール、クロスダイポールは同じ傾向であるものの変化量は少ない結果となりました。

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サイドが動くとトップの「節」が内側に移動する。

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周波数はヴォイシング作業によって表板強度が下がるのでそれにつれて下がりますがバックを接着し箱状になると一気に上がり約200Hzになります。ボディ共鳴(ヘルムホルツ共鳴)のほぼ倍の周波数であることからこの2つ(もしくはバック板も含めて3つ)の要素が互いに影響しあっていると考えられます。

次にロングダイポールを見てみるとヴォイシング前とヴォイシング後、バック接着後でも周波数があまり変化していない事が分かります。このモードはXブレイシングやトーンバーを削ってもあまり影響されないようです。ブレイシングパターンなど初期段階での設計で決まってくる部分なのでしょうか。

一方クロスダイポールはXブレイシングのスキャロップ加工でかなり変わることが分かりました。いつも通り削ったNo.1場合はロングダイポールとクロスダイポールの周波数が近づいています。NO.2は意図的にクロスダイポールの周波数が低くなりすぎないように気を付けてヴォイシングしました。

結果、まったく同じ仕様のギターですので根本的な音の方向性は同じなのですが、
No.1はいわゆるギブソン系でコンプレッションの効いたストロークで気持ちの良いサウンド。1,2弦はやや線が細い印象をうけます(ギブソンよりは断然よいが…)。

No.2はマホガニーサイドバックの要素は持ちつつも1,2弦のハイポジションでも良く鳴り、遠鳴りのする、クラシックギター的響きのギターになり「ギブソンぽさ」には欠けます。

イメージとしてはボディ共鳴(Air cavity)、表板(Top)、裏板(Back)の固有振動周波数が偏っていて谷間(Gap)のある状態がNo.1のギター。均等に分布している状態がNo.2のギター。ソモギに代表されるピアノトーンはNo.2の方向と思います。

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 どちらが良いという訳でなく求める音や楽器に合わせて調整することが大事で、クラドニパターンはその一つの方法として有効であると思います。

 

 

エポキシ樹脂によるアコースティックギター用ピックガードの作り方

ヴォイジャーギターズの特徴の一つにもなっている自作のアコースティックギター用ピックガードですが、ギターフェス等で同業者やギタークラフトの学生さんから「どうやって作ってるのですか?」と聞かれることが多いのでここで公開いたします。ピックガードのみの販売はしていないのでご自身でぜひトライしてみてください。

アコギ自作ピックガード過去作品例(クリックで拡大します)

アコギ自作ピックガード ヴォイジャーギターズ
アコギ自作ピックガード ヴォイジャーギターズ
アコギ自作ピックガード ヴォイジャーギターズ
アコギ自作ピックガード ヴォイジャーギターズ
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この方法はもともとアメリカのギター製作家ジョン・グレーベン氏の考案によるトーティス(Tor-tis)ピックガードから着想を得て2013年くらいから自分なりに実験を繰り返し開発した手法です。アコースティックギターブック31の付録DVDにグレーベン氏ご本人がピックガードを作っている様子が収録されています。

まず材料ですが

システムスリー 低粘度エポキシ SB-112
TransTint Liquid Dye トランスティント染料

の2つです。
SB-112エポキシは国内でもヒロウッデンカヌーショップさんにて購入可能です。
このエポキシを選んだ理由としてはギター塗装の際に目止めとして当方で使用しているという事と、紫外線吸収材が含まれているので耐久性の面でほかの物より良いと考えたからです。

まだ試していないのですが国内のレジンクラフトでよく使われるデブコンETなどでも製作可能と思われます。

※追記 デブコンETは粘度が低いので気泡は入りにくいのですが、表面張力で厚みを盛ることが出来ない、色が混じって柄が出ないなどの特性がありました。混合後、数時間置いて粘度が上がってから作業するなどの対策が必要です。

トランスティントの染料はLMIにて購入できます。この染料は水、シェラック、水性塗料、油性塗料など様々なものに使える優れものです。他の染料も試してみましたが気泡の発生や硬化後の肉痩せなどの面で一番使いやすいと思いました。

あとは器具の拭き取り等にアルコールがあると便利です。

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 手順としてはまずピックガードの型を制作します。エポキシを型に流し込むのですが”土手”は必要なく平らな板で大丈夫です。表面張力でエッジがいい感じにテロっとなりますので完成後に面取りの必要もありません。材質はエポキシの接着しにくいポリペンコアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン等が使えます。レジンクラフトでは型の剥離剤としてシリコンスプレーを塗布する場合もありますがピックガードの場合はボディに接着するときに裏面に貼る両面テープが付かなくなってしまうので使用しない方が良いです。

f:id:VoyagerGuitars:20160804201655j:plainGibson J-45ラージピックガード、スモールガード、L-00、Martin D、OMなど

 エポキシの主剤と硬化剤を混ぜます。このエポキシは混合比がとてもシビアで適当に混ぜると硬化不良になりますので精密なハカリを使って行います。1枚のピックガードに必要なエポキシの量ですがティアドロップで20g(例えば主剤14g:硬化剤6.16g、合計20.16g)もあれば十分です。

次にエポキシに染料を混ぜベースとなる色を作ります。それを型全体に伸ばします。ピックガードの厚みは大体ここで決まります。薄いと反り易くなるのでトーティスと同じように1mmくらいはあった方が良いでしょう。残りのエポキシにさらに染料を追加して任意のパターンを描きます。

そして最後にガストーチであぶり気泡を抜きます。あくまでもさっとあぶる感じです。気温の高い時はエポキシが柔らかいので気泡も抜けやすいです。冬場は混合前にエポキシを湯煎にして温めるなどの工夫が必要です。

そして完全に硬化したら型とピックガードの間にパレットナイフなどを差し込み外します。このとき少しドライヤーなどで温めてピックガードを柔らかくしておいた方が割れるリスクが減ります。

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この状態で完成でも良いのですが若干、色の濃い部分が痩せて平滑さに欠けます。
表面を研磨して平滑にしたいところですが気泡が完全に抜けていないと研磨の際にプツプツと白い点が出てきてしまいます。ウレタン塗装が泡を噴いた時のようなの感じです。

なので現状ではこの状態から表面にラッカー塗装を施しています。長く使っていて表面のラッカーにクラックができたりするのもそれはそれで味かと…。

真空ポンプとデシケータを使い完璧に脱泡できれば表面研磨で仕上げられるのではないかと考えています(今後の課題です)。

塗装後、磨きをかけて完成です。裏面も両面テープ貼り付け前に軽くコンパウンドで磨いておくと透明度が増します。ちなみに両面テープは3Mの467MPを使っています(LMIで購入可能)。

ベッコウ柄、ファイヤーストライプ、墨流しなど市販品にない柄や形が自由に作れますし調色も楽しいです。あらかじめ切り出した貝を型に配置した状態でエポキシを流し込みインレイ入りのピックガードを作ることも可能と思います(これも今後の課題)。


エポキシ樹脂ピックガードの作り方 How to make your own Pickguard




 

アコースティックギター裏板のブレイシングパターンいろいろ

表板が音色の基本的な部分を作るのに対し、サイドバックは色付けとして役割を持ちます。D-18とD-28を弾き比べればわかるように「色付け」とはいってもギターの音色を大きく左右します。使用する木材の密度、硬さ、弾性はもちろん厚みやブレイシングパターンなど表板と同じようにその要素はとても多く、複雑です。

最近ではいろいろなブレイシングパターンが試されていますので代表的なものをFEA解析してみました。

モデルにしたのはVJ-45タイプで材はローズウッドの設定です。
※あくまでも参考程度に考えてください

・4 Ladder 一般的なラダーブレイシング

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3 Ladder クラシックギターなどでよくみられる3本のラダーブレイシング

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Ribcage ラダー4本に宙に浮いた縦ブレイシングを追加したタイプ

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Lattice 格子状に組まれたラティスブレイシング

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2 Ladder with X  ラダー2本とXを組み合わせたブレイシング

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No brace 最後にブレイシングがまったく無い状態

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各パターンの周波数一覧と比較グラフ

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サウンドホールについての考察

アコースティックギターサウンドホールについての考察です。

通常マーチンDタイプなら4インチ(101.6mm)、000は3-7/8インチ(98.4mm)の物が多いです。年代、メーカー、モデルによって若干の差はあります。

ボディの共鳴音ではホール径が大きい→共鳴音が高くなる、小さい→共鳴音が低くなる、と書きましたがAcoustic function of sound hole design in musical instrumentsによると空気の大部分は開口部の縁付近を流れており開口部中心付近の共振周波数への影響は低いとの研究結果が載っています。
リュートのロゼッタの実験によると開口面積の50%が塞がれていてもヘルムホルツ共鳴の共振周波数の違いは半音以下だそうです。

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下の画像でもわかるように鉄弦ギターではサウンドホールは表板の振動しやすいエリアの中に配置されています。一方でクラシックギターではハーモニックバーがあるのでサウンドホール周辺は振動しにくいエリアです。

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左・鉄弦ギター、右・クラシックギター

ということはサウンドホールによって表板の振動エリアが減ってしまい音質が損なわれているとも考えられます。また鉄弦、クラシック両方に言えることですが通常のサウンドホール位置はギターの中心部で弦による張力を受ける場所です。そこに大きな穴が空いているのは強度的観点からも好ましくありません。指板材の収縮により指板エンドからサウンドホールにかけてクラックが発生するケースもあります。

ならばいっそサウンドホールを指板の横のショルダー部などに移動してしまうのはどうか。実際にタコマやオベーションのような通常とは異なる位置にサウンドホールのあるギターも存在します。

短所としては修理やPU取り付けの際にボディ内部へ手が入れられない事でしょうか。対策としてボディサイドに取り外し可能な”蓋”を設けてあるギターもあります。

 最近は結構見るようになったサイドサウンドポートですが実際にどのような効果があるのか開けてみました。

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結果としては

・プレイヤーに聞こえるギターの音量が少し大きくなる
・プレイヤーに聞こえる音色のバランスがギター正面の音に近くなる
・ボディの共振周波数が高くなる

プレイヤーに聞こえる音量が増えるとその分、前に飛ぶ音が減るような気がします。狭い部屋では壁の反射があるので違いは良く分かりませんでした。クラシックギターでは音の遠達性が重要ですが鉄弦の場合はピックアップでの増幅が一般的なのであまり関係ないかもしれません。

共振周波数についてはメインのサウンドホールは製作中に大きさを変えることはロゼッタ等との関係からほぼ不可能ですがサイドサウンドポートならある程度大きめに補強を施しておけばボディ完成後にポート径を変更できるので共振周波数の調整弁としての役割で使うのもありだと思います。もしくはスライドドア付きのサイドサウンドポートならプレイヤーが任意に調整できます。

  • 結論

以上の考察を踏まえると理想的なギターのサウンドホールはこうなります。

・表板の振動エリア、中心部を避けた配置
・開口部の中心部はあまり影響がないので振動エリアを増やし強度を上げるために塞ぐ
・サイドサウンドポートを設け、ボディ完成後に任意の共振周波数になるように大きさを調整

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デザインを煮詰めれば使えるかも…。

 

アコースティックギターボディの共鳴音~ヘルムホルツ共鳴~

ボディの共鳴音。
サウンドホールに向かっていろいろな音程で「ウーー」と言うと特定の高さで共鳴するのが分かります。その音がボディの共鳴音です。主にギターの一番低い音の部分を担うのでドレッドノートではG(98Hz)あたり、トリプルオーでA(110Hz)あたりになるように設計されています。シングル0とかL-00だともう少し高くてスモールボディギター特有のポコポコした箱鳴りがします。

この共鳴音がGやAなど特定の音程にピタリと合ってしまうとウルフとかデッドポイントと呼ばれる現象が起きるのでGとAbの中間とか少しずらしたあたりの周波数になるようにするのがセオリーです。

この共鳴音はヘルムホルツ共鳴と呼ばれています。ラムネの瓶の口に息を吹きかけるとボーという音がするのと同じ原理です。サウスウェールズ大学のホームページに計算方法が載っていますので計算してみました。

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f (Hz) 共鳴周波数
c (m/s) 音速
r(m)サウンドホールの半径
V(㎥) ボディ内の容積
1.7は開口端補正

実際に数値を当てはめてみると

音速は340m/sにしました。
サウンドホールの半径は50mmなので0.05m。
ボディ容積はVJ-45のボディ面積をCADで測ったところ0.16㎡で、ネックでのボディ厚が98mm、ボディエンドで122mmとして足して2で割って110mm=0.11m。
0.16×0.11=0.0176なので四捨五入して0.018。

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122HzだとB(5弦2フレット)の少し下くらいです。実際にはG(98Hz)くらいなのでちょっと差が大きいですね。

このヘルムホルツ共鳴の計算式は”容器の壁”が頑丈で動かないことが前提になっていますのでギターのように表板・裏板・側板が変形する場合はこの計算式では正確には求められないという事が分かりました。

ヘルムホルツ共鳴器の”壁”に柔軟性がある場合(Elastic Helmholtz resonator)に関して興味深い論文がありました。ヴァイオリンとヴィオラのfホールについてです。

The Air Cavity, f-holes and Helmholtz Resonance of a Violin or Viola
やはり”壁”に柔軟性がある場合は共鳴周波数が低くなるようです。

"サウンドホールの径が小さくなると共鳴周波数が低くなる”
"ボディ内の空気量が増えると共鳴周波数が低くなる”

という事に関しては通常のヘルムホルツ共鳴器と同じです。
他にもいろいろ面白いことが書いてありますので読んで損はないと思います。

結論としては、アコースティックギターのボディ共鳴音は

サウンドホールの直径
ボディ容積(ボディ内の空気の量)
トップ、バック、サイドの柔軟性

によって決まると考えていいと思います。(※サウンドホール直径と共鳴周波数の関係性については次回また詳しく書きますのでそちらも参照してください。)

計算によって周波数を導き出すことは難しそうなので新しいボディシェイプのギターを作る際はまず1本作ってみないと分からない、という事ですかね…。

アコースティックギター表板のヴォイシング、タップチューニングその3

表板の3つの振動モード」で出てきたロングダイポールとクロスダイポールは300~400Hz付近の1,2弦にとって「おいしい」周波数の振動モードです。個人的にこの振動モードをうまく機能させれば鳴らしにくい1,2弦を鳴らせるのではないか、と考えています。

ギターのボディはポンプのようにサウンドホールから空気を吸ったり吐いたりしています。モノポールの動作はでんじろう先生の空気砲のようなイメージです。空気を吸って吐いての繰り返しです。ギターの場合はこの動作にプラスしてスピーカーのように表板の表面が周囲の空気を直接振動させてもいます。
ロングダイポールやクロスダイポールではシーソーのように片方が膨らむと片方は凹みます。膨らむ部分と凹む部分が互いに打ち消しあってしまいサウンドホールから出る空気の量と表板が振動させる空気の量が減ってしまうと考えます。

 

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 イメージとしては下の動画のような感じ。

 

これを解消するために振動する強さに差をつければよいのではないか。片方がもう一方より強く振動するようにするのです。

多くのクラシックギター製作家は表板の低音弦側を薄く、高音弦側を厚くしています。鉄弦でもC.F.マーティンの考案したとされるXブレイシングはトーンバーが2本斜めに配置されており左右非対称になっています。上の画像でも分かる通り標準的なスキャロップドXブレイシングではすでにロングダイポールもクロスダイポールも片方がより多く振動しています。しかしブレイシングの断面形状で書いたように少しの表板の厚みやブレイシングの削り方次第で剛性が大きく変わりますのでこれが対称的な振動になってしまっても不思議ではありません。

次の画像はXブレイシングの下に4本のトーンバーを組み合わせて配置したいわゆるラティスブレイシングでのロングダイポールとクロスダイポールの振動の様子です。ブレイシング配置が左右対称のため、振動も対称になっているのが分かります。

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ブレイシングパターンが左右対称でも良いギターはたくさんありますので一概に「非対称パターンのほうが良い」とも言えません。またパターンが対称でも表板の厚みを部分的に変えたり、スキャロップの削り方で強度的に非対称にすることもできます。

どのようなブレイシングパターンでどれくらい対称・非対称にするかは製作家・メーカーによって様々です。

例えばボジョアはドレッドノートの高音弦側Xブレイスはスキャロップしていません。


Bourgeois Top Voicing Demonstration

※しかしソモギの本を読むと「波の干渉」を用いてダイポールでも必ずしも互いに打ち消しあう訳ではないというようなことが書いてあります…。どうなんでしょうね。

アコースティックギター表板のヴォイシング、タップチューニングその2

ヴォイジャーギターズで行っているヴォイシングの方法です。
ブレイシングはある程度整形をして背が高めのままにしておきます。この状態で表板と横板を接着しモールドに固定して行います。スキャロップ加工もこの時点ではしていません。

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ここからタップトーンを聞いてブレイシングを削り表板の強度、響きを調整していきます。後々のためにタップトーンは録音し、データとして保存しています。

調整前のタップトーンを聞いてみましょう。

トントンと音程が高く、音に伸びがないのが分かります。
この音を周波数解析したのが下の画像です。

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これをブレイシングを削り調整していくとこうなります。

先ほどより音程が下がり音に伸びが出ているのが分かると思います。
製作家によってはこのタップトーンを特定の音程に合わせたり、トップとバックのタップトーンの音程差を2度とか7度とか決めている方もいるみたいです。個人的に今のところはモノポールの周波数をある程度の目安にして、あとは全体的な響きを確認しているぐらいです。「ブレイシングの断面形状」で書いたようにブレイシングの高さが変わると剛性が大きく変化するのでそこを意識しながら、場所によって極端に剛性の強弱が付かないように気を付けて削っています。

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調整後のブレイシングです。このように「音」で表板を調整していきますのでここが何mmという寸法はこの作業ではあまり気にしません。

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この後に続く作業(研磨、塗装、ブリッジ貼り付け)で表板の振動パターン、共振周波数が変化しますし、裏板がついてボディが箱になるとまたお互いに影響しますのでこの状態でのタップトーンとギター完成時の音との相関関係を把握する必要があると思います。