VoyagerGuitarsのアコースティックギター製作考

アコースティックギター製作、ヴォイシング・タップチューニングその他いろいろ~ヴォイジャーギターズ~

D-18タイプ・アコースティックギター製作その5~表板ブレーシング~

ブリッジプレートはローステッドメープル材を使用しています。サーモウッドとかトーリファイドと呼ばれる加熱処理材です。厚みは1.9~2.1mmこれも低音弦側を薄く、高音弦側を厚くしています。ブレーシング材はシトカです。グレーベン曰くマーティンはブレーシングにアディロンダックは一度も使っていなかったとのこと。ドーミングは40feet=約12mです。

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Xブレーシングの交点には布を張るのではなくスプルースでフタをするように接着します。サウンドホール周りの補強もクラシックギターのようなリング状のスプルースです。マーチンクラックやロゼッタ周辺の割れ・変形のリペアの経験からこのあたりの処理は強度と耐久性を重視しています。

f:id:VoyagerGuitars:20190806225327j:plainすべてのブレーシングを接着してある程度整形したら横板と接着します。この時点ではスキャロップ加工は行いません。

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裏板が貼られていない状態でモールドに入れてスキャロップをします。

ここは何mm削るということではなくて任意の周波数になるように少しずつ削っていきます。寸法で決めてしまうと木材の強度の差によって強すぎたり弱すぎたりしてしまうのでモノポール、ロングダイポール、クロスダイポールの周波数を目安にすることで強度と響きを最適化します。

具体的な方法としては振動スピーカーと紅茶の葉っぱを使ってクラドニパターンと呼ばれる方法で各振動モードの周波数を探ります。そして葉っぱの留まる場所、つまり振動していない節になっている部分に線を引いておきます。スキャロップの際にその線の部分を削らずに残すようにすることでブレーシングのピークの位置がおのずと現れます。

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周波数のみでなくタップトーンの変化も聞き取って、トンというサスティンのない高い音からもっとオープンな少しサスティンのある音になるまでスキャロップします。気分的なものかもしれませんが叩いたときに指先に少し弾力を感じるようになります。初めてこの作業を行うのであれば同じ形のギターを2本並行して作って比較しながら行うと良いでしょう。

最終的に
モノポール:147Hz
ロングダイポール:349Hz
クロスダイポール:395Hz

としました。ミディアムゲージを張ることも想定して少し高めになっています。硬すぎたら完成後にサウンドホールから手を入れてもう少しスキャロップすることもできます。

一つの個所を削っても各振動モードに影響しますのであちらを立てればこちらが立たずといった状況が生まれます。ロングダイポールの周波数だけを低くしたくてもそうはならないわけです。それを変えるにはもっと根本的なボディシェイプやブレーシングパターンを変えなくてはいけません。音の方向性はそういった部分で決められておりヴォイシング作業はあくまでも最適化なのです。

ヴォイシングが終了したら裏板を接着します。裏板も外周を固定する道具を作ることで表板同様にクラドニによるヴォイシング作業を行うことができますが現状はそこまでの作業は必要ないと判断してフリープレートでのタッピング確認にとどめています。

最終的なブレーシング形状です。極端な剛性の差を避けるために現行マーティンのエグるようなカーブのスキャロップではなく、なだらかなカーブになっています(ブレーシングの高さと強度については過去記事参照)

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