アコースティックギター表板のヴォイシング、タップチューニングその1
下の写真のようにアコースティックギター製作家が表板をコンコンと叩いて、その叩いた音=タップトーンを聞いてブレイシングや表板を削って調整をすることをヴォイシングとかタップチューニングと呼びます。1枚1枚、木材の硬さや密度が違いますので音を聞いて個々に調整します。
思い描いている音に近づくように表板の剛性や重量、振動を「最適化」する作業といったところでしょうか。ヴォイシングによってドレッドノートのギターを000のような音にするとかそういう事ではありませんのであくまでも最適化だと思います。
製作家によって色々な方法があり、このように表板だけで行う場合もあれば表板と横板を接着後に行う方法もあります。
ヴォイジャーギターズは後者です。
表板と横板を接着してからモールド(型枠)に入れた状態で行っています。裏板はまだ接着していないのでブレイシングを削ることができます。このほうがギターの完成形により近い状態で表板の振動特性を調整することができると思っているからです。タップトーンを録音するためにレコーダーを使います。続く
アコースティックギター表板の3つ振動モード
アコースティックギター表板の3つ振動モード。
- Monopole モノポール
- Long Dipoleロングダイポール
- Cross Dipole クロスダイポール
1.Monopole モノポール。
モノポールは下の画像のようにブリッジ付近を中心に表板が上下動する振動モード。周波数は180Hz前後。
2.Long Dipoleロングダイポール
ブリッジを中心にサウンドホール側とボディエンド側がシーソーのように振動するモード。周波数は300Hz前後。
ロングダイポール
3.Cross Dipole クロスダイポール
ボディのセンターラインを中心に1弦側と6弦側がシーソーのように振動するモード。周波数は400Hz前後。
クロスダイポール
もちろんこの他にも振動モードがたくさんありますがこの3つのモードをうまくコントロールすることが音作りに重要かなと思っています。
※このシミュレーションはFreeCADで3Dデータを制作したものをLISAというソフトで解析しています。
標準的なXブレーシング+トーンバー2本、ブリッジ貼り付け済みのVJ-45モデルの表板を外周で固定して動かない状態での解析です。実際のアコースティックギターではボディ内の空気、裏板、横板などいろいろな要素が相互に影響しあっていると思われます。 また3Dデータ制作、解析パラメータの設定等もよく理解していない部分があるのであくまでも目安程度に考えてください。
ブレイシングの断面形状
ブレイシング(力木)の断面図です。
AとBのブレイシング、断面積は同じ=同じ木なら重さも同じ、ですが剛性が高いのはBです。
専門的なことは「断面係数」とか「梁のたわみ計算」などで検索すれば出てくると思います。自分の理解している範囲でギター製作に関して説明すると
ブレイシングの断面形状の横幅が2倍になると強さも2倍になります。
高さは2倍になると強さはその3乗=8倍になります。高さが3倍になれば3³で27倍になります。
AとBのブレイシングの強さを比較すると、BはAに対して幅は1/2、高さは2倍です。幅の分だけ強さは半分になります。高さは2³で8倍。
1/2×8で4倍の強さという事になります。同じ断面積でもそれだけの差があります。
もう一例。高さが18mmのブレイシングがあります。14mmまで削って低くしたとします。たった4mmで強さはおよそ47%ほどになってしまうのです。
計算式は14÷18=0.7777、0.7777³=0.47
スキャロップ加工が表板の剛性に与える影響の大きさが分かります。
さて次に断面形状が三角形のCのブレイシングです。
三角形にした場合、Bの長方形と同じ強さを得るには高さを1.44倍する必要があるそうです。強さは同じですが一方で断面積は5×20=100mm²に対して5×28.8÷2=72mm²と三角形のほうが72%になっていて重量を軽くすることができます。
断面形状を変えることによりブレイシングの重量と強さのバランスを変えることができます。
表板の厚みに関しても同じで3.0mmを2.7mmに薄くすると、0.3mmの違いですが計算上は28%も強度が落ちることになります。
このことを理解したうえで板厚の決定、スキャロップ加工をすることが重要と思います。